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第5回 お茶の水女子大学ホームカミングデイ(化学科共同企画)

2012年 5月26日(土)

化学的にみた福島第一原子力発電所事故の客観的現状


荒谷 美智
S31年化学科卒、S41年修士課程修了、核化学・放射化学専攻、理学博士
六ヶ所村文化協会 文化・教育アドバイザー
日本女性科学者の会 サイエンス・コミュニケーター
NPO法人 放射線教育フォーラム幹事

 今回の事故を、素過程としての化学過程から見ることにします。「止める」「冷やす」「封じ込め」の内、「止める」は機能。核分裂反応の暴走で燃料が爆発・拡散したチェルノブイリ型事故にはなりませんでした。しかし「冷やす」では5重(@燃料焼結体格子、A燃料被覆管(ジルカロイ)、原子炉のB圧力容器、C格納容器、D建屋)といわれた「封じ込め」が機能せず、核分裂生成物が漏洩。原子炉の一次冷却材は純水で、圧力容器内では放射線分解で水素ラジカル、水酸化ラジカル、水和電子が生成し、水素ガスが常時発生。温度が2倍になれば反応速度が10倍になるのに水素ガス対策は無し。建屋に水素が漏れ(使用済み核燃料プールからも発生か)、酸素と共に爆鳴気ができ建屋が吹っ飛ぶ。人為的ガス逃がし(ベント)はバルブによる低圧化ですが、手間取るうち(フィルター設置無し!も躊躇の一因か)適切な風向き(海へ)を逸し、地域住民に避難を強いる結果(人災!)となりました。
 核分裂の連鎖反応(臨界)は止められ、熱の発生源は主に放射性元素の崩壊熱です。炉心にはジルコニウム合金(ジルカロイ)で被覆された核燃料があり、核分裂で生成した放射性元素(β崩壊核種)の崩壊熱と水素でジルカロイが劣化、核燃料が露出、融解、落下。燃料済みウラン235の濃度は低下、再臨界無し。ただ使用済み燃料中でウラン238から超ウラン元素が生成、中には自発核分裂核種あり。しかし、これは散発的分裂で臨界には至りません。「冷やす」は、現在「冷温停止状態」という形で実現。目下の緊急課題は生活の場(土壌=固相)や原子炉構内で増大する汚染水(液相)の除染です。ゼオライトが使われましたが、現在は、プルシアンブルー(紺青)との複合吸着材が威力を発揮中。
 復興については、人災も含め今回の破壊を創造的破壊と受けとめるのでなければ、何も変らないでしょう。戦後、米国に帰化した宇宙化学者・地球化学者 黒田和夫(P. K. Kuroda)博士は20億年前のウラン鉱床では、ウラン235が〜3%で、連鎖反応(臨界)が自然に起きた可能性あり、と指摘(1956)。フランスのグループによりアフリカのガボン共和国オクロ鉱山で実証(1972)。爆発はなく、間欠泉のようなものとして終始。これは臨界後の崩壊熱と超ウラン元素の自発核分裂による自然の熱の滝で、今まさに福島で現出している状態と同じです。千年に一度級の大災害を契機に突如出現したこの自然熱源を、例えば熱電併発(コジェネレーション)すれば限りなく地熱発電に近い半永久的熱源として機能。これは黒田博士の知的遺産を活かす創造的な対処であり、今、日本人がこれを行なわなければ、大災害によって示唆された真に平和的なウラン利用の道を逸することになると私は考えるものです。