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桜化会(OUCA)は、お茶の水女子大学化学科・関連大学院の卒業生・修了生と現旧教員でつくる会です。

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2003. 9.20 OUCA講演会 「特許をめぐって」

―― 「特許のたどる運命」 ――


須藤 阿佐子
S37年化学科卒
元特許庁審判部首席審判長、 須藤特許事務所所長(弁理士)

 産学官の共同作業は、一つのテーマごとの一大事業であり、現場は未だ経験したことのない多種類の仕事があって、人材不足の感を否めない。
 第一に求められるのが、大学の発明者の意識改革であると思う。「発明者」であるといった意識は希薄で、研究者、教育者であることを心掛けていらっしゃる。学会発表については経験豊富であるが、成果を実用化して産業の発達に寄与しようとか、そのために特許出願をしようとかの行動はほとんど取ったことがない。
 ずいぶん昔のことだが、特許庁の審査官の技術研修に、林太郎教授をお招きして講演をしていただいたことがある。当時、ホトトロピーを示す化合物を発見され、そのご研究の成果か光の量によって濃度(色)が変わる調光機能をもつメガネレンズに活かされるきっかけになっていたと記憶している。その現象を利用した日焼けする人形という米国特許を見つけ、それを例にとって、応用化についてどう取り組みますかなどと生意気な質問をしたところ、基礎的な研究が大学(お茶の水女子大学理学部)の研究の使命であり、もっと深く掘り下げる研究に意欲があること、日本化学会賞という評価で満足していること、応用化は工学部とか企業などでやってくれるとありがたいと思っていることなど、淡々としたお答えであった。また、弁理士になってから、あるクライアントから、恩師の阿武喜美子先生のご研究の成果で立ち上がった企業ですと名乗られたこと、別のクライアントでは天然色素の発明や野菜くずを発酵させて天然ガスを採取する発明を取り扱って黒田チカ先生のお名前に至ったことなど、大学と企業とは研究や就職などを通して親密な関係があったこと教えてくれた。
 このように大学が基礎的な研究の場であっても、その成果は産業の発達に寄与し得る、特許出願をすると特許になるような発明の宝庫であると信じている。これまで通りの研究のし方であってもよいけれども、ぜひ、実用化するとか、産業の発達に役立てようとかという意識を加えていただきたい。また、企業の知財戦略へのこれまでの投資、経験、蓄積等を十分に尊重していただきたい。
 企業側も大学との共同作業について、大学の変化や、一時的な混乱を暖かい目で見守りつつ、より積極的な新しい関係を構築する姿勢で臨んでいただきたい。テーマにもよるが、単なる役割分担という割り切りではなく、よい人間関係で叡知を絞り、共同作業で産業をおこすという意気込みを持っていただきたい。
 私のクライアントの大学とのお付き合いにおいて、折り目正しいよい関係をよく見るが、大学との共同出願には発表済みの発明について出願をすることが多く、いろいろの制限があって、とても残念な思いをすることがある。発表を制限されたことで悩んでいる企業の発明者とお会いしたこともある。情報の管理は企業のイロハの戦略である。
 価値ある情報を価値ある状態に置くということ、特に金銭的な価値をさげないという観点からは、発明の価値を評価する常識を高めること、特許出願するのに値する発明は出願前には発表をしないこと、発表する前に特許出願ができるようにするシステムをつくること、などが大切である。第二に求められるのが、大学のこうした特許出願手続きのシステムつくりであろう。
 卒業生には多いとは言えないが、いろいろな技術分野で活躍する弁理士が育っている。ぜひ、大学の産業界との共同作業に係わる仕事に携わって、お茶の水女子大学とともに、知財を取り巻く環境の変化に対応していただくことを願っている。