お茶の水女子大学TOP
理学部TOP ENGLISH

国立大学法人32大学理学部長会議 緊急声明(平成22年10月8日)

国民の皆様へ

明日の理学の教育と研究のために(緊急声明)
−基礎科学の振興によりいっそうのご理解とご支援を−

平成22年10月8日
国立大学法人32大学理学部長会議

2010年度ノーベル化学賞は,鈴木章先生(北海道大学名誉教授)と根岸英一先生(米国パデュー大学特別教授)の日本人研究者お二人を含む三氏に,授与されることになりました。国立大学法人32大学理学部長会議は,お二人の受賞を心より祝福するとともに,我が国が,科学・技術の振興により引き続き社会の幸福な繁栄に貢献できることを願い,本緊急声明を発表いたします。

我が国の財政悪化と長引く経済不況により,国立大学法人への予算や,科学・技術および学術振興策への予算が,年々厳しいものとなっております。現在策定中の平成23年度予算においても,大幅に削減される可能性も出ております。このような状況の中,理学の教育と研究を進めている学部の責任者の集まりである私たちから,国民の皆様に私たちの置かれている状況や考えをお伝えし,ご理解とご支援をお願いするものです。

我が国では,明治に入り,未知のものに対する知的好奇心が生み出した近代科学の精神が導入されました。その後,この精神は日本人全ての心に深く浸透し,国家として目指す道であるとの国民の総意ともなりました。これを支えとした先人の努力により,日本は科学・技術大国としての地位を確立しました。

この近代科学の中核をなす理学は,物や現象を区分けしたり,整えたりして,筋道たててその本質や本性にせまる学問です。宇宙はいつどのようにして生まれ,現在に至ったのか,物質を作っている究極のものは何か,生命とは何かなど,自然に対する根源的な疑問を明かにしようとする学問なのです。夜空を見て,地球と同じような星がどこかにあって,そこに生命が存在すると考える基礎も,理学の成果です。理学は,私たちの考えと心を豊かにし,私たちの生活にロマンと潤いをもたらすものともいえましょう。

このため,理学の研究成果のすべてが,私たちの明日の生活や経済発展のために直ちに役に立つというものではありません。理学の成果は,数十年という時を経て,社会に大きな影響を与えるものも数多くあります。たとえば,今回のノーベル化学賞では,1970年代に行われた基礎研究の成果が,医薬品や液晶などの開発に結実して,人類の福祉に多大な貢献をしたものと高く評価されました。

理学の教育の目的は,先端的な研究成果に基づいた専門的教育によって,現代社会の諸問題の克服に必要な科学的思考能力を持つ優れた高度職業人と教育研究者を育成し,社会の発展に貢献することです。私たちは,この目標に向かってこれまで最大限の努力を行ってきました。

理学の研究は,常識にとらわれない自由な発想を基盤としています。この自由な発想による研究を,基盤的経費である「国立大学法人運営費交付金」(注1参照)と,研究者からの申請課題を研究者自らが厳格に審査して採否を決める「科学研究費補助金」(注2参照)が支えております。

しかしながら,運営費交付金は既にこれまでも毎年削減され,大学は大変苦しい運営を強いられてきました。これ以上の削減は,国立大学法人の存立自体が脅かされるものと考えております。また,理学がいっそうの高みをめざすには,“人財”の底辺拡大が大切ですが,私たちは各地の高等学校や地域と連携し,深刻な問題となっている理科離れに対応し科学の裾野を広げようとしています。運営費交付金という基盤的経費の削減は,大学からその力を奪い,次世代,次々世代の“人財”育成に大きなわざわいをもたらすでしょう。とりわけ,地域に根ざした教育と研究を行っている地方大学での影響は甚大です。さらに,科学研究費補助金の削減は,研究環境の劣化を招き,若手研究者の育成にも多大な影響を及ぼすことになり,ひいては学部学生や大学院学生の教育と研究に深刻な影響を及ぼすことは必定です。

現在,平成23年度の予算が策定されつつあります。この中で,運営費交付金も科学研究費補助金も,「元気な日本復活特別枠」(要望枠)が認められないときには,昨年度より大幅に削減される案(それぞれ4.8%,12.5%の減)となっております。私たちは,運営費交付金と科学研究費補助金に対する「元気な日本復活特別枠」(それぞれ884億円,350億円)が満額認められるよう希望しております。現在,内閣府は,この「元気な日本復活特別枠」に対するパブリックコメントを募集中です(注3参照)。パブリックコメントの結果は,「元気な日本復活特別枠」に反映されることになっております。国民の皆様には,このような事情に鑑み,国立大学法人,そして理学の立場を理解していただき,ぜひご忌憚のないお考えやご意見を,パブリックコメントに反映して下さるようお願いいたします。

北海道から沖縄にいたる全国32の国立大学法人で,我が国の自然科学に関する教育と研究を通して次代を担う“人財”を育成し,科学・技術立国を基礎から支えている理学系学部からのお願いです。

国立大学法人32大学理学部長会議  構成メンバー
  北海道大学 理学部長山口 佳三
  弘前大学 理工学部長稲村 隆夫
  東北大学 理学部長花輪 公雄
  山形大学 理学部長櫻井 敬久
  茨城大学 理学部長堀 良通
  筑波大学 理学系組織連絡会議議長    木越 英夫
  千葉大学 理学部長大橋 一世
  埼玉大学 理学部長中林 誠一郎
  東京大学 理学部長山形 俊男
  東京工業大学 理学部長岡 眞
  お茶の水女子大学 理学部長塚田 和美
  新潟大学 理学部長谷本 盛光
  富山大学 理学部長山田 恭司
  金沢大学 理学部長中尾 愼太郎
  信州大学 理学部長武田 三男
  静岡大学 理学部長村井 久雄
  名古屋大学 理学部長國枝 秀世
  京都大学 理学部長吉川 研一
  大阪大学 理学部長東島 清
  神戸大学 理学部長坂本 博
  奈良女子大学 理学部長塚原 敬一
  島根大学 総合理工学部長竹内 潤
  岡山大学 理学部長高橋 純夫
  広島大学 理学部長出口 博則
  山口大学 理学部長田中 和広
  愛媛大学 理学部長佐藤 成一
  高知大学 理学部長逸見 豊
  九州大学 理学部長荒殿 誠
  佐賀大学 理工学部長林田 行雄
  熊本大学 理学部長古島 幹雄
  鹿児島大学 理学部長清原 貞夫
  琉球大学 理学部長山里 眞

注1:国立大学法人に対する運営費交付金

 国立大学は,平成16年度(2004年度)から国立大学法人へと法人化されました。運営費交付金は,国から国立大学法人に手当てされる予算です。大学の規模や附属病院の有無によって異なりますが,理学部長会議に参加する32大学では総収入の40%弱から70%強を占める主要財源です。運営費交付金は,平成16年度から平成21年度までの6年間で,毎年1%を超える割合で削減されてきました。その総額は830億円に達し,この額は,小規模大学二十数大学の総運営費交付金に匹敵するものでした。
 平成22年度の運営費交付金の予算は1兆1585億円でした。平成23年度,文部科学省は,1兆1025億円と,平成22年度に比べ4.8%減で財務省に要求しました。

本文へ戻る

注2:科学研究費補助金

 研究者の自由な発想による(しばしば「ボトムアップ」と呼んでおります)課題の申請に対し,複数の同分野の研究者が審査して採否を決めるシステムの研究費です。科学・技術関係予算の中で,分野を特定せず,純粋に計画の善し悪しや重要度などの観点から採否が決められる,もっとも研究者に開かれているのがこの科学研究費補助金です。
 平成22年度の科学研究費補助金の予算は2000億円でした。平成23年度,文部科学省は,1750億円と,平成22年度に比べ12.5%減で財務省に要求しました。

本文へ戻る

注3:「元気な日本復活特別枠」に対するパブリックコメントの募集について

 来年度の予算策定に関し,政府は各省庁に対し,今年度比で一律10%の削減を求めました(シーリング)。この10%枠,額にして約1兆円を「元気な日本復活特別枠」とし,各省庁から事業を募集しました。その結果,文部科学省をはじめとし,各省庁から189の事業,合計2兆9000億円に達する要望がでています。
 これらの事業はいわゆる「事業仕分け」の対象であり,この事業仕分けを「政策コンテスト」と呼んでおります。現在,内閣府では,「元気な日本復活特別枠」に提案されている各事業に対し,広く国民のパブリックコメントを募集しております。パブリックコメントの結果は,「元気な日本復活特別枠」の事業の採否に反映されることになっております。
 パブリックコメントの募集は,9月28日(火)から10月19日(火)までの期間です。この「元気な日本復活特別枠」全体のパブリックコメントは,以下のウェッブサイトから入ることができます。
    http://seisakucontest.kantei.go.jp/
 また,本緊急声明で特にお願いしている国立大学法人運営費交付金と科学研究費補助金に関するパブリックコメントについては,以下のウェッブサイトから入ることができます。
    http://seisakucontest.kantei.go.jp/project/detail.php?t=1905
 パブリックコメントの表明は,郵送やFAXでも行うことができます。記入用紙等は以下のウェッブサイトからご入手下さい。
    http://seisakucontest.kantei.go.jp/pdf/fax_form.pdf

本文へ戻る