「化学と工業」の編集において提案したテーマ(2002年) 生命という現象に挑む化学

21世紀これからどのようにリーダーを育てるか。これからリーダーを作る時に何が必要か。新しいことをやればよい訳ではない。従来の概念に囚われず、今ま で知られていても分らないことに挑戦することである。
多体問題は解けない。実際に、多体でできていて存在して1つの状態を作っている。全体としての状態を表記したのは熱力学であり、統計力学がより個々を表す 手段として新たに作られ状態を表記して、全体の状態の変化について概念付けをした。20世紀は、量子力学の世紀であった。分子の光の吸収がどういうものか は分らないが、現象は分っていた。異なる状態をどう表記するか。その間の関係を表記する方法は分っていなかった。吸収とはどういうものかを表記するために 知られた物理量をどう表記するか。それまでは、位置と速度が決まるとして表記しようとしていた。ついに、1つの纏まったもので表記する方法を考えだした。 それが、シュレディンガーの状態方程式でありディラックのマトリックス表記法であり量子力学の表記法である。量子力学の表記法により、新しい概念が加わっ てくる。新たな概念が生まれた時に新たなリーダーが生まれた。新たな現象が生まれたからといって新たなリーダーが生まれる訳ではない。
現象として分っているが、概念が表記できていない21世 紀の問題の1つは生命である。
死んだ細胞と生きた細胞がある。どこが違うのか。どちらも酵素反応は続いている。酵素反応は同じであ る。物質としてみたときに区別する概念としてなにもない。生命が生きている、死んでいる、厳然たる事実としてはある。分裂しなくても生きている。生きてい る生命体は何であるか。生命を表記する方法はまだ確立されていない。生きている生命とはどういう状態であるか、表記できる概念を作り出していくことが新た 問題として残されている。
かなり早い時期は、生体物質について発見、合成があり、化学は合成、化学結合、物質の特性について業績が上がった。天然界の反応を調べ、理解する現象を理 解するのが化学の王道であるが、王道の中でも最大の生命という莫大な反応に挑戦すべき偉大な山がある。それを征服する時がきた。何段もの中継地点キャンプ を、1つ1つ作り上げて頂上を目指す。ただこの道は1本ではない。それぞれのルートを取るにしても、それぞれのキャンプでマイルス トーンを築き頂上を目指す時が来た。
今生きている生命はいまだかつて死んでいない。最初に生命が出来た時から生命の継続反応が止まっていない。生命が生まれてから、生命の化学反応は1度も途 絶える事なく延々と続いている。これは化学として目を向けなければならない1つである。これを抜きにしては頂上へは達せられない。
生化学はどんな反応が起こっているかどういうメカニズムで起こるかの視点で研究をしている。個々の化学反応を探し、個々の酵素反応として捉えている。どれ どれの反応は、類似している反応というふうに。化学は、類似性のある反応がなぜ類似しているか。なぜその反応が起こっているか。そ ういう反応がなぜ生命の中で使われ始めたのか。その反応の化学の本質は、こういう条件とこういう制約があるからその反応が生命に適していた。なおかつ何度 も繰り返すことが出来る。それに対する回答を考えるのが化学である。
生命が維持されているのはエネルギーの生産と物質の生産である。エネルギーを使ってアミノ酸、ヌクレオチドの材料を生産して、その後これらの材料からタン パク質、脂肪酸、RNA、DNAのマシーンを作る。これらを作ったからといって動いている訳ではない。それが止まらずに動いているシステムになっている。 それが最終的に知りたいことである。エネルギーを作り出すギアの入れ替えはどうやるのか。どのタイミングで1度作られたものを壊していくのか。分裂した後 に壊してまた2台つくるための材料を外から取り込むためにエネルギーを作り継続する。これをサイクルのある化学反応として捉え、ドライバーがいないけれど も動いている。その調節がどのようなメカニズムか分れば生命の継続性は分る。
1)生命が動いているために必ず必要な過程である、エネルギーを作る機構、アミノ酸、核酸を合成する過程、使われたmRNAtRNA、 タンパク質を分解する過程、これらの基本的な過程の統一的な解釈。
生命の多様性以外研究しなければならない動かすための条件についてのキャンプ課題を考える。生物は、金属を使っている。生命の反応の中では基本的な反応で ある。生物は、エネルギーを作らなければならない。エネルギーを作る呼吸は、酸化還元反応だから金属が必ず必要である。この酸化還元反応は、普通に行われ ている生体系の反応とは違う。それは、いつでも起こせる。静止状態から活動状態への移行で最初に起こるのが呼吸である。呼吸によりATPを最初に作る。そ の時、リン酸を外から取り込まない限り、次の世代の分裂が起こらない。ATPヌクレオチドを作るために窒素がいる。窒素も外から取りこまなければならな い。大気に酸素がない太古の時代から生命はリン酸を使っている。リン酸は確実に供給されている。エネルギーを作り出す機構がない限り生命という反応は継続 しない。細胞の中の反応でなく、その周囲の原料の供給、地球の供給に目を向け、地球上で存在するための基礎として、
2)生命が使える量のリンと窒素が、どのようにして地球の表面に供給されてきたか。
3)紫外線フィルターとしての大気
生物が生きるためには大気が必要すなわち紫外線がないことが必要。今はオゾンで遮られている。太古の時代酸素がない時代に、どういう反応で紫外線を吸収し ていたか。太古の地球上の大気は、どのような組成であったか。その中で、紫外線はどのように遮られたか。
4)MgZnCaを なぜ使っているのか。なぜ他の金属でないのか。
核酸の反応にMgが使われている。いくつかのタンパク質はZnがないと動かない。呼吸のためにリン酸を必ず使っているにも係わらず、なぜ溶解度の小さい Caを使うのか。
5)4個の核酸の間の反応の違いはどこにあるのだろう。
エネルギーとしてGTPでもなくCTPでもなくUTPでもなくATPしか使わない理由は、何か。再生される場所は決まっている。その環境でATPが作られ ると効率がよい。ある環境ではATPのイオン化が起こらない。従って作れる。
6)核酸の起源、それがどうやって出来たか
CO、CO2、NH3が地球上で作られた。それからどのようにして核酸の塩基が作られたか。C1からCを延ばすあるいはNをつける化学。
7)膜の起源
生命の出現には細胞膜が必要である。膜が先か、生物が先か。細胞膜はどういう形で形成されるか。外と中の環境は異なるなかで膜はできている。二重膜の内膜 と外膜の脂肪酸の構成は異なっている。この脂肪酸を作る機構がある。細胞のなかで材料を作って細胞外、外膜に並べる。細胞の中で液胞がどのようにして作ら れるか。細胞の核膜も細胞の中で造られる。DNAを中に入れて二重膜ができる。この機構。