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◇電荷移動 (電子移動(ET)、プロトン移動(PT))に対する溶媒の(動的)効果

 電子移動反応(酸化還元反応)やプロトン移動反応(酸塩基反応)における反応障壁は、極性溶媒の溶媒和エネルギー程度である場合が多い。このとき、溶媒との相互作用が反応の行方を決定づけるとともに、その速度はその相互作用の揺らぎ(溶媒分子の運動)の速さに支配される様になる。(下図参照) このような溶媒のダイナミックスが反応に直接関わることは、電子移動(ET) に対してはSumi-Marcus-Nalderらによって、プロトン移動(PT) に対しては、Hynes グループによる一連の研究によって理論的な裏付がなされた。一方、ET、PTに対する溶媒の動的効果の実験的検証は、1990年代から2000年台にかけて、超高速レーザー分光を用いた研究が盛んに行われた。これらの研究では、手法の性質上、その反応系は電子的励起状態を経由するものがほとんどである。一方“溶液中”での、“電子的基底状態間の分子内電荷移動(ET、PT)反応”は、化学反応として、より普遍的な意味を持つばかりでなく、前者の反応系と比べ、その反応のdriving force (ΔG)がきわめて小さいか、ゼロである場合ほとんどであり、また、反応系と生成系が平衡状態にある(あるいは平衡状態に近い)など、溶媒の動的効果の反応速度への関わり方が、前者の反応系とは異なる側面を持つことも考えられる。この意味で、後者の反応系への溶媒効果についての実験的なアプローチは必須であろうと考えられる。しかし、残念ながら、現実的には適当可能な実験的手段の欠如から、後者のカテゴリーに属する反応に対する溶媒の(動的)効果についての定量的かつ系統的に行われた実験は未だ見いだせない。本研究室では、核磁気緩和が関わる系内での様々な磁気的相互作用から、ET、PTに関わるダイナミックスに由来するものの抽出に成功し、現在、分子内ET、PT反応速度に対する溶媒効果について、実験的検証を続けている。
図2

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