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●糖鎖変化によって調節されるビトロネクチンのコラーゲン結合性 ビトロネクチンは肝臓で産生され、血液や結合組織中にあって、血液凝固系、線溶系、補体免疫系などさまざまな調節にかかわると考えられています。たとえば細胞培養でウシ胎児血清を加えますが、その中の微量のビトロネクチンが細胞の接着伸展に重要です。でも試験管の中で活性を示しても、生体内での本当の機能はまだ完全にわかってはいません。私達はこれまで、ビトロネクチンの糖鎖やタンパク部分の構造解析を行いましたが、近年、再生肝ラットの血液に含まれるビトロネクチンを調べる機会に恵まれました。 肝臓は、1/3以下を手術で切除すると、10日ほどで元の大きさにまで成長するという驚くべき再生能力をもっています。再生中の肝臓がつくるビトロネクチンは、糖鎖の量と構造が非常に変化し、同時にコラーゲン結合活性が正常ラットの数倍に増強しておりました。しかも、再生肝の産生するビトロネクチンだけではなく、シャム手術(開腹して肝臓を切除せずに、元どおり縫合する)を行ったラットのビトロネクチンでも、程度はやや低いながら、同じ変化が起きていました。以前に、試験管のなかで酵素を使って、ビトロネクチンから人工的に糖鎖を除くと何が変わるかを調べたことはありました 1) が、生体内で実際によく似た変化が起きている例を見つけることができ、とても嬉しく感じました。組織の再生や傷口の修復において、ビトロネクチンが重要な役割を果たすのかもしれません。肝切除の手術後では、肝臓の産生する糖タンパク質の量が一旦減少し、ビトロネクチンの量も半分以下になりますので、ビトロネクチンでは糖鎖を中心とした質的な変化によって、量の低下を補うことも考えられます。このような例が見いだされたことから、「急性期の糖鎖と組織修復の関係」に興味をもち研究を進めています 2〜4) 。 肝星細胞は、肝障害時に活性化され、細胞外マトリックス分子を産生して組織再形成に関わる細胞です。ラット肝再生初期のビトロネクチン基質上では、肝星細胞の過剰な活性化を抑制することがわかりました 5) 。ビトロネクチンの糖鎖調節機構は星細胞の活性化制御を通じて、過剰なマトリックス産生による肝線維化の発症を抑制するしくみではないかと考えられます。
1)
Yoneda A., et al.,
Biochemistry
, 37(18), 6351-6360, (1998)
2)
Uchibori-Iwaki H., et al.,
Glycobiology
, 10, 865-874, (2000)
3)
Sano, K., et al.,
Glycobiology
, 17(7), 784-794, (2007).
4)
Sano, K., et al.
Carbohyd. Res.
, 343, 2329-2335, (2008).
5)
Sano, K., et al.,
J. Biol. Chem.
, 285, 17301-17309, (2010).
6)
Ogawa H., et al.,
"Liver regeneration" Baptista, P. ed., InTech
, Open Access (2012).
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