研究概要


1)カチオン−π相互作用を利用する面選択的反応


 分子内あるいは分子間相互作用にはさまざまなものが知られていますが、カチオンーπ相互作用は、新たな相互作用として近年非常に興味が持たれています。カチオンーπ相互作用は、カチオンとπ面との間に働く力であり(図1)、その相互作用力は非常に大きいことが特徴として挙げられます。例えば、ベンゼンとナトリウイオンとの間の相互作用による安定化エネルギーは、28 kcal/molにも及ぶことが明らかにされています。本相互作用はまた、タンパクの折りたたみや神経伝達物質であるアセチルコリンの認識にも関与しているなど、さまざまな生化学反応において重要な役割を担っていると考えられています。

 私共の研究室では、ピリジニウムとフェニル基とのカチオンーπ相互作用を利用し、ピリジニウム環への面選択的付加反応に成功しました。

 本反応の概念図を図2に示します。分子内にピリジニウムとフェニル基の両方を有する化合物を、ピリジニウム塩に変換すると、分子内カチオンーπ相互作用により二つの面が向かい合った構造を取ると考えられます。これに対し、求核試薬が遮蔽されていない面から攻撃することで、立体選択的に、1,4-ジヒドロピリジンが生成すると考えられます。この考えを確かめるために、化合物 1 と正電荷を持つ 2 のX線結晶解析を行ったところ、予測通り、正電荷を持たない化合物 1 では二つの面は遠く離れているのに対し、化合物 2 では、二つの面が向かい合った構造を取ることが明らかになりました(図3)。そこで、実際に 1 に対する求核付加反応を行ったところ、高い選択性で目的とする1,4-ジヒドロピリジン誘導体 3 を得ることができました(Scheme 1)

 このように、当研究室ではカチオンーπ相互作用を立体選択的付加反応に初めて利用することができました。現在、カチオンーπ相互作用を様々な反応に利用していこうと検討しています。





[関連論文]
  1. S. Yamada, Y. Takahashi, “Stereoselective synthesis of N,N-acetals by cyclization of an N-acyliminium ion through interaction with an N-sulfonyl group”, Tetrahedron Lett. 2009, 50, 5395-5398.
  2. S. Yamada, M. Inoue, “Regio- and stereoselective addition of allylmetal reagents to a pyridinium-π and quinolinium-π complexes”, Org. Lett. 9, 1477-1480 (2007).
  3. S. Yamada, J. Yamamoto, E. Ohta, “Enantioselective cyclopropanation reaction using a conformationally fixed pyridinium ylide through a cation-π interaction”, Tetrahedron Lett. 48, 855-858 (2007).
  4. S. Yamada, C. Morita, J. Yamamoto "Elucidation of the formation of cation-π complexes and their conformational behavior in solution by CD spectroscopy" Tetrahedron Lett., 45, 7475-7478 (2004).
  5. S. Yamada and C. Morita, “Face-selective Addition to a Cation-π Complex of a Pyridinium Salt: Synthesis of Chiral 1,4-Dihydropyridines”, J. Am. Chem. Soc., 124, 8184-8185 (2002).
  6. S. Yamada, M. Saitoh and T. Misono, “Stereoselective Synthesis of 1,2- and 1,4-Dihydropyridines by Using Cation-π interaction as a Conformation-Controlling Tool”, Tetrahedron Lett., 43, 5853-5857 (2002)


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