TOP>化合物紹介
化合物紹介
● カリックスアレーン (Calixarene)
1970年代後半に、Gutscheらは、塩基性触媒下でのp-t-ブチルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合反応を制御する方法を見いだし、カリックスアレーン四、六、八量体を1段階で合成することに成功した 1) 。これにより、カリックスアレーンを容易に、かつ安価に、そして大量に合成できるようになり、ホスト-ゲスト化学に広く用いられてきた。 ホスト分子となるカリックスアレーンの内径の大きさを変えることで、とりこまれるゲスト分子の大きさも変化する。例えば、フェノール単位を8つ含むカリックス[8]アレーン誘導体はフラーレン類のうちC60のみをとりこむことができるため、特定の大きさのフラーレンを単離することが可能になった 2) (下図)。また、フェノール環に機能性官能基を導入することで、多様な機能を持つホスト分子へと応用されてきた。 他にも、フェノール環をピロールに置き換えた”カリックスピロール” 3) やメチレンの炭素が硫黄になった”チアカリックスアレーン” 4) などに展開されており、多様な構造と性質をもつホスト分子が開発されている。 参考 : 1) C. D. Gutsche, Acc. Chem. Res. 1983, 16, 161-170. 2) Seiji Shinkai et al., J. Synth. Org. Chem., Jpn. 1995, 53, 963-974. 3) Vladimír Král et al., J. Am.Chem. Soc. 1996, 118, 5140-5141. 4) Mir Wais Hosseini et al., Tetrahedron Letters. 1998, 39, 2311-2314. (棚谷研究室 有村舞子) |
● トリプシン・トリプシノーゲン (Trypsin, Trypsinogen)
参考 [1] Brown W. E. et al., Biochemistry 12(1973) 828-834 [2] Mann N. S. et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 206(1994) 114-118 [3] Takekawa H. et al., J. Biol. Chem., 281(2006) 8528-38 [4] Ogawa H. et al., FEBS Lett., 589(2015) 569-75 (小川研究室 緒方彩) |
● 粘膜保護物質 ムチン (mucin)
参考 [1] Taylor ME et al.著, 西村紳一郎, 門出健次 監訳「糖鎖生物学入門」化学同人 (2005) [2] Larsson JM et al., Glycobiology, (2009) 19, 756-766より改変 (相川研究室 水戸晶子) |
● 色素増感型太陽電池用有機色素 M K-2
(2-Cyano-3-[5'''-(9-ethyl-9H-carbazol-3-yl)-3',3'',3''',4-tetra-n-hexyl-[2,2',5',2'',5'',2''']-quarterthiophen- 5-yl]acrylic acid) 太陽エネルギーを電気エネルギーへと変換する「太陽電池」の研究は近年盛んに行われていますが、中でも、有機太陽電池の一つである色素増感型太陽電池が注目されています。光吸収部位に「色素」を用いており、エネルギー変換効率の高さと製造コストの低さが期待されています。 MK-2は、カルバゾール系の有機色素であり、電子供与性(ドナー)部位であるカルバゾール骨格と電子吸引性(アクセプター)部位であるシアノアクリル酸基をオリゴチオフェン骨格で結合した構造を有しています。このドナー・アクセプター構造により、可視光領域に強い吸収を示すようになります。また、電極上に吸着するためのカルボキシル基を有し、分子間の相互作用による会合を抑制するために、オリゴチオフェン骨格に長鎖アルキル基を有します。これにより、色素から電極への効率的な電子移動が可能となります。MK-2を用いた太陽電池では8.3%とこれまでの有機太陽電池の中では高い太陽エネルギー変換効率が得られていますが、より高い太陽電池特性を得るためには、更なる戦略的な有機色素の分子設計が必要となります。 Koumura, N.; Wang, Z-S.; Mori, S.; Miyashita, M.; Suzuki, E.; Hara, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 14256., 2008, 130, 4202. SIGMA-ALDRICH. “ 色素増感太陽電池用有機色素 ”. SIGMA-ALDRICH ホームページ (参照2015-04-04) (矢島研究室 野上栄美子) |
● アクアポリン(Aquaporin,AQP)
Peter Agreは赤血球からこの性質を有するタンパク質”アクアポリン”を発見し、2003年にノーベル化学賞を受賞した。 アクアポリンは中心がくびれた構造をしている。砂時計を想像するとわかりやすいだろう。保存されたアルギニン残基があるあたりで最もくびれており、その部分は水分子の直径とほぼ同じの2.8 Åである。この部分で水分子の大きさを認識し、水の水素結合を弱めることによって選択的に透過させる。また水が通過する部分に面している残基の多くは疎水的な側鎖であり、イオンのような電荷をもつものは周りの原子と強く相互作用してはじき出されるため、選択的に水分子を透過することができると考えられている。 我々のカラダでは多くの種類のアクアポリンが働いている。例えば尿の生成によって体液の恒常性を維持する腎臓では、複数種のアクアポリンが発見されている。また様々な活動に必要なエネルギーを産生するミトコンドリアにもアクアポリンが局在しており、代謝で生成される多量の水の放出を担っていると考えられている。このアクアポリンが少なくなるとミトコンドリアの呼吸機能が落ちることがわかり、非常に興味深いタンパク質である。 |
[参考] ・N. Iida-Tanaka et al., J Pharmacol Sci. 104(4):397-401 (2007) ・佐々木成 “水とアクアポリンの生物学” 中山書店 (2008) (小川研究室 伊香賀玲奈) |
● 四塩化白金錯体イオン Tetrachloroplatinate (Ⅱ)
また、白金をめっきする(電気化学的に析出させる)際の白金源としてもよく利用されている。原子配列の整った貴金属単結晶上では、基板の原子配列に沿って整列することがわかっている[3]ため、これを利用して単結晶上に原子配列の整った白金を電析させることが可能となり[4]、高価な白金量の低減化と高活性化をみたした新しい触媒の開発が期待されている[5]。 [1] F. A. Cotton et al., Advanced Inorganic Chemistry, Wiley-Interscience (1999). [2] 萩野博, 岡田博美, 岡崎雅明, 基本無機化学, 東京化学同人 (2006). [3] K. Itaya et al., J. Phys. Chem. B, 2004, 108, 3224. [4] M. Shibata et al., J. Phys. Chem. C, 2012, 116, 26464. [5] T. Kondo et al., Chem. Lett., 2011, 40, 1235. (近藤研究室 石崎桃子) |
● 細胞接着分子 CD166/ALCAM
CD166/ALCAM (Activated leukocyte cell adhesion molecule)は分子量約10万の細胞膜貫通型の糖タンパク質です。隣り合った細胞に発現するCD166/ALCAM同士が細胞外ドメインを介して結合し、細胞間の接着を仲介します。ある種の癌ではCD166/ALCAMの産生量が高いと、手術後の患者の生存期間が短縮される傾向があることや、転移しやすい性質がみられることが報告され、癌の悪性度、特に転移の進行に関与することがわかってきました。これらの観察から、CD166/ALCAMが癌のバイオマーカーになることや、分子治療のターゲットとなる可能性が期待されています。しかし、CD166/ALCAMにはmRNAができる過程で生じる複数の変異体があり、さらには糖鎖修飾やマトリックスメタロプロテアーゼ等による切断などの翻訳後修飾を受けるため、生体内には多様な分子種のCD166/ALCAMが存在します。CD166/ALCAMの癌の進行における分子機能を理解するためには、各分子種が調節するシグナル経路を明らかにし、それらがどのようなタイミングではたらくかを明らかにする必要があります。 |
Hansen AG, et al. Cancer Res 74(2014)1404-1415. Fujiwara K, et al. PLoS One 9(2014)e107247 Ma L, et al. J Biol Chem 289(2014)6921-6933. (相川研究室 眞野知子) |
● 特異な水素吸蔵特性を示す金属ナノ粒子
(Metal Nanoparticles as Novel Hydrogen Storage Materials)
最近注目を集めている水素吸蔵材料の一つとして、金属ナノ粒子を挙げることができる。金属ナノ粒子はバルク金属に比して表面積が大きく、バルクには無い新たな水素吸蔵サイトをもつことから、バルクで水素吸蔵特性を示す金属をナノ粒子化することで水素貯蔵特性の向上が実現できると期待されている。だが、その期待とは裏腹に、バルク状態で優れた水素吸蔵能を示す金属として知られる Pd をナノ粒子化すると水素吸蔵量が減ってしまうことが報告された。一方、同じ 10 族元素である Pt はバルク状態では水素吸蔵特性を示さないが、ナノ粒子化することによって水素吸蔵特性を示すようになる。Pdナノ粒子とPtナノ粒子の格子定数はそれぞれ3.89, 3.92 Å であり良く似ている。それにも関わらず,それらの「バルク→ナノ化」による水素吸蔵特性の変調特性が全く異なることは、Pd, Pt ナノ粒子の電子状態が全く異なることを意味する。未来の水素貯蔵媒体の設計指針を得るために、理論計算化学の手法を用いて水素吸蔵特性とナノ粒子の電子構造の関係の解明が待ち望まれている。 [1] H. Kobayashi et al., J. Am. Chem. Soc., 130, 1828-1829. (2008) [2] M. Yamauchi et al., Chem. Phys. Chem., 10, 2566-2576. (2008) (森(寛敏)研究室 松田彩) |
● コラーゲン(Collagen)
近年、コラーゲンがこのような力学的役割だけでなく、細胞接着、シグナル伝達にも関与していることが明らかにされつつある。 参考:ヴォート基礎生化学 (小川研究室 山崎茜) |
● DNA存在下で発光特性を示すルテニウム(Ⅱ)錯体
(Ruthenium(Ⅱ) complexes with luminescence property in the presence of DNA)
図のRu(Ⅱ)錯体 [Ru (bpy)2(dppz)]2+ (bpy = 2,2'-bipyridine, dppz = dipyrido[3,3-a:2',3'-c]phenazine) は、水溶媒中では発光を示さないが、DNA に挿入すると発光を示す特徴をもち、光スイッチ分子として広く知られています [1]。この錯体について、2009年に、ミスマッチ塩基対挿入下における発光強度が適正塩基対挿入下における場合よりも大きいことが報告され、ミスマッチ塩基対の検出に対してRu(Ⅱ)錯体の活用に期待が高まりました [2,3]。ミスマッチ塩基対とは、DNA塩基が適切に組まれていない対のことです。こうしたミスマッチ塩基対を認識する分子は、近年、化学療法学や診断学の観点から注目されています。例えば、ガンの初期診断にミスマッチ塩基対の検出が有効であると期待されます。その理由は、ガンのリスクが高まる要因にミスマッチ修復系の欠如があり、ミスマッチ修復系の欠如はミスマッチ塩基対の出現確率の増大と関連するからです。一方で、化学診断への錯体の活用には「ミスマッチ塩基対挿入下においてより強く光る」錯体が求められます。その錯体設計の指針を得ることが今後の課題としてあり、現在も研究が進められています。 参考: [1] A. E. Friedman et al., J. Am. Chem. Soc., 1990, 112, 4960. [2] M. H. Lim et al., Inorg. Chem., 2009, 48, 5392. [3] H. Song et al., Nature Chem., 2012, 4, 615. (鷹野研究室 大塚美穂) |
● ポリリン酸(polyphosphoric acid, polyphosphate)
ポリリン酸は無機リン酸の重合体で、負電荷に帯電した生体分子である。哺乳類から微生物に至るまで多くの生物種で発見されているが、自然界に存在するポリリン酸の重合度は幅広い。例えば、ヒトの血小板から放出されるポリリン酸は重合度60〜100程度であるのに対し、微生物では重合度数千にものぼる。ポリリン酸の研究は微生物で先行しており、例えば1980年代には、微生物のポリリン酸を利用して糖やADPをリン酸化する酵素が発見された(1)。一方、近年、哺乳類のポリリン酸に強い血液凝固促進作用があることが見いだされ、注目されている(2)(3)。興味深いことに、血液凝固の促進作用はポリリン酸の重合度によって異なる。ポリリン酸の血液凝固における作用機構の詳細は、一般的な止血製剤としてポリリン酸が利用されて行く上で、あるいは新しい血栓症治療法の開発につながるアプローチに重要であろう。 参考: (1) Pepin C. A. et al., J Biol Chem 262(1987)5223-5226. (2) Morrissey J. H. et al., Blood 119(2012)5972-5979. (3) Geddings J. E. et al., Thromb Haemost 111(2014)570-574. (相川研究室 倉浪佑実子) |
● ホルクロルフェニュロン(forchlorfenuron):大きな種無しぶどうをつくるホルモン
首藤紘一 薬学雑誌114, 577-588(1994). 橋本祐一, 永田龍二, 首藤紘一 化学と生物3,262-266 (1995). (棚谷研究室) |
● “動的な”ペプチド環状錯体結晶
(三宅研究室) |
● 金属-金属五重結合をもつ化合物
(森(寛敏)研究室) |
● デキストラン(Dextran)
デキストラン (dextran) はグルコースからなる粘性のある多糖類で、スクロースを原料として乳酸菌などの細菌が生産する。また歯垢(プラーク)にも含まれる。分子量は天然では400万にもなり、D-グルコースがα-1,6グリコシド結合で直鎖状に結合し、ところどころにα-1,4結合で分岐している。これは、デンプンやグリコーゲンがα-1,4結合の主鎖を持ち、枝分れがα-1,6結合であることと対照的である。産業上有用なデキストランは、高分子デキストランを酸で部分的に加水分解して調製され、分岐構造が少なく、デンプンやセルロースと異なり冷水への溶解度が高い。 デキストランはシロップなどの原料、大量出血時の血圧低下を防ぐための血漿増量剤(代用血漿)などに利用される。様々なデキストラン誘導体、たとえば血漿リポタンパク質分解を高め高脂血漿剤として有用なデキストラン硫酸やカルボキシルメチルデキストランなどは、医薬品や化粧品添加物などに利用されている。さらに産業および基礎研究分野では、クロマトグラフィーのゲルろ過担体やイオン交換体として、物質の分離精製や分析に広く利用されている。 (小川研究室) |
● ビオチン(Biotin)
(小川研究室) |
● MHPOBC
液晶はその名の通り液体と固体の中間の状態をとる化合物であり、広く表示装置などに応用されています。中でも自発分極をおこし、多くのものが不斉点を有し、3つの安定状態間でのスイッチングをする反強誘電性液晶は、その物理・化学的挙動の面白さのみでなく、ディスプレイ材料として有用性からも盛んに研究が行われてきました。代表的な反強誘電性液晶であるMHPOBC(4-(1-Methylheptyloxycarbonyl)phenyl 4'-octyloxybiphenyl-4-carboxylate)の単結晶X線構造解析はお茶の水女子大学の堀佳也子らによって行われ、結晶中では不斉炭素の部分で折れ曲がった構造をとっているという新しい知見を発表しました(図は報告された結晶構造,アスタリスクは不斉炭素を示す)。この発見はその後の液晶の分子デザインに大きな影響を与え、多くの液晶が合成されました。 液晶は今日の私たちの生活に欠かすことのできない化合物です。基礎的な化学の研究があってこそ新しい便利な分子を生み出すことができるのです。 *Hori, K. and Endo, K. Bull. Chem. Soc. Jpn., (1993) 63, 46. (矢島研究室) |
● フェロセン(Ferrocene)
(近藤研究室) |
● ヘキサアリールビスイミダゾール(HABI)
ヘキサアリールビスイミダゾールは、1960年にお茶の水女子大学の林太郎と前田侯子によって化学発光物質ロフィンの発光機構の研究途中に発見された*。偶然得られた紫色の結晶を指で押しつけただけで濃い赤紫に変わることを見つけたのが始まりである(前田侯子最終講義資料)。圧力によって色が変化するピエゾクロミズムの他、光や熱によっても色が変わり、時間がたつと元の色に戻るフォトクロミズム、サーモクロミズムを示すことも見出された。このような現象は、外的刺激によりラジカルが生成したためであることが、ESR装置(国内第一号機)によって確認され、この紫色物質は、図のように、ロフィンの二量体であることが明らかになった。 このような特異な性質を有するHABI誘導体は、現在光重合開始剤としてフォトレジストなどの分野では必要不可欠のものとなっている。当時は応用など全く意図していなかった理学的な基礎研究が、後になって産業に大きく貢献した好例である。 *Hayashi, T. and Maeda, K. Bull. Chem. Soc. Jpn., (1960) 33, 565. 前田侯子最終講義資料のリンク先: http://www.sci.ocha.ac.jp/chemHP/ouca/index.html (左側メニューから”化学科アーカイブ”をクリックして下さい) (山田研究室) |
● ポルフィリン(Porphyrin)
(近藤研究室) |
● ZG16p(zymogen granule 16-kDa protein)
(相川研究室) |
● シコニン(Shikonin)
(森(義仁)研究室) |
● シュードプロテオグリカン(Pseudo-proteoglycan)
(小川研究室) |