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ホームカミングデイ2026 化学科・桜化会OUCA共同企画講演会

2026年 5月30日(土)

バイオイメージングで解き明かす細胞核の不思議


平野 泰弘
お茶の水女子大学 理学部化学科 講師

  細胞核は我々生物の設計図である遺伝子がその機能を発揮するための極めて重要な細胞内構造体である。細胞核内ではDNA、タンパク質、脂質など実に多様な分子がダイナミックに集合離散を繰り返しながら機能を果たす。我々は、遺伝情報が細胞核に収納、維持され、次世代へと継承される一連の現象の分子メカニズムをバイオイメージングを基軸に明らかにすることに挑戦している。本講演では、これらの中でも特に遺伝情報の継承に関わるキネトコア(動原体)の構築原理について、我々の最新の研究成果を紹介する。
  細胞が増殖する際、複製された2セットの染色体(DNA)は、細胞の両極から伸びてきた微小管にそれぞれ捕らえられ、反対方向に引っ張られることで正しく娘細胞に分配される。この時、微小管が結合する染色体上の構造がキネトコアである。キネトコアは染色体上のセントロメアと呼ばれる特徴的な領域に形成され、細胞周期を通じてセントロメア上に結合している構成的セントロメア結合タンパク質群(Constitutive centromere-associated network: CCAN)と分裂期のみにCCAN上に形成されるKMNネットワークの2つのサブ複合体からなる。我々の研究グループはこれまでの研究で、細胞内で機能的なキネトコアを形成するためにはCCANの一つであるCENP-Cタンパク質が分子クラスターを形成することが必要であることを見出していた。そこで本研究では、1) 細胞内のキネトコアは何分子のキネトコアタンパク質で構成されているのか、2) それらのタンパク質がどのような構造を形成しているのか、という2点について検討を行った。
  キネトコアを形成するキネトコアタンパク質の分子数は先行研究でも問われてきた点ではある。しかし、従来の測定法は、あるタンパク質を基準として、自身の興味あるタンパク質の濃度もしくは個数を定量する相対定量によるものであった。相対定量には、そもそも基準としたタンパク質の濃度や分子数に測定誤差が含まれること、基準タンパク質と測定対象タンパク質の染色性が違うなどの問題点があり、分子数定量の精度が必ずしも十分であるとは言えなかった。そこで本研究では、分子数を理論的に絶対定量することが可能な蛍光相関分光法(FCS)を用いて、キネトコアタンパク質の絶対定量を行った。その結果、分子クラスターを形成するCENP-Cが他のCCANタンパク質より約2倍多く含まれていること、KMNネットワークの中でも微小管と直接結合するNdc80複合体の数を一定量以上に保つことがキネトコア-微小管間の安定な結合を形成するのに重要であることを見出した。
  次にこれらの分子が細胞内でどのような構造を形成しているかを調べた。一般的に、細胞内の分子構造体の観察には蛍光顕微鏡が用いられる。ところが、これまでの蛍光顕微鏡法では、空間分解能に制限があり(〜200nm程度)、これより小さなキネトコアは点状にしか見えず、その内部構造を観察することはできなかった。そこで、細胞内の分子の空間座標情報を拡大することのできる膨張顕微鏡法を用いて、キネトコア内部の構造の観察を行った。本手法を用いると、細胞を約10倍拡大して観察することが可能で、これは蛍光顕微鏡の空間分解能が10倍向上するに等しい。本手法を用いてCCANタンパク質の構造を観察すると、CENP-Cが中心に集積し、その外側を他のCCANタンパク質が覆うShell-core構造を形成していることが分かった。これに加え、分子動力学シミュレーションを用いてCCANタンパク質の動態と構造を予測したところ、CENP-CとDNAの結合がCCANの配向を決めていることが分かった。CENP-CがDNAと結合できなくなる変異体を細胞に発現させると、染色体分配に異常を生じたことから、このShell-core構造の形成が機能的なキネトコアを形成に必須であることが明らかとなった。
  最後になりますが、2007年の蛍光タンパク質の発見と応用、2014年の超解像顕微鏡の開発にノーベル化学賞が贈られたように、バイオイメージングの技術革新に化学は非常に大きな役割を果たしています。今後も化学の視点からバイオイメージング技術の革新に取り組むことで、細胞核の機能を明らかにしていきたいと考えています。