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2001.11.21 立花先生・島先生講演会

隕石にまつわる話


講師: 島 正子 国立科学博物館名誉研究員

要旨 (島先生ご自身によるまとめ)

講演会の様子
 一般に化学に携わる人たちは、原子の集まりである元素は、未来永劫にそこにあるものと無意識のうちに考え、元素自体の本質については思考の外においているのではないだろうか。ところが目を自然界に広く向けると、ここに存在する物質は主成分元素と微量成分からなり、主成分元素といわれる元素の数はそう多くないということに気づかされる。自然界に存在する物質の約90%が占める主成分は水素、炭素、酸素、窒素、ケイ素、鉄等といった元素であり、また微量に存在する元素でも偶数の原子番号を持つ元素は、両隣の奇数の原子番号を持つ元素よりも一般に多く存在する。このことから元素には非常に安定なもの、ある程度安定なもの、不安定なものがあることがわかる。

 この考えをつきつめたところに元素生成理論が生まれた。宇宙生成の初期には水素とヘリウムしか存在しなかったが、水素とヘリウムから第一世代の恒星が生成し、その恒星の中で元素が合成され、終末を迎えた時に超新星爆発を起こしてその内容物を宇宙空間にばらまいた。第二世代以降の恒星はその物質をもとに生成され、同じ事を繰り返し、現在に至っている。元素生成理論は、原子核そのものの核定数の測定、宇宙の観察、自然界における元素存在度の分析化学的研究から発展してきたのである。

 自然界における元素の存在度を調べるには、我々の手の届く範囲内では、隕石を化学分析するのが最も良い。隕石といってもいろいろな種類があるので、元素存在度の研究をするのに最も良い隕石が探求されてきたことは言うまでもない。
 又元素と一口に言っても、各元素には、質量数が異なる、つまり中性子数が異なる原子(同位体)が存在する。これらを核種(nuclide)という。(核種とはいうがこれは核(nuclear)を意味しているのではなく、外殻電子を持った個々の原子を意味している)。
 さて安定なといわれている元素は本当に永遠に安定なのであろうか。現在最も寿命の長い核種は1021年程度の半減期を持つものである。これは1グラムの原子核が1年間に約1個の速度で壊変していることを意味している。これ以上の長い寿命は現在では測ることが出来ない。したがって、今安定な原子核を持つ元素と考えられている元素もいつの日にか壊変してしまうかも知れない。

 隕石中の安定といわれる元素を分析することによって、地球化学的にも、宇宙化学的にも、例えば地球が、太陽系の地球型惑星が、或いは隕石自身がどのようにして出来てきたのか、どの程度の温度まで上がったのか、重力の場がない宇宙空間ではどの様な化学反応がおこっているのか、重力の場がある地球や火星の中でおこる結晶成長とどの様な違いがあるのか(希土類元素、ウランやトリウムのような重い微量元素から鉱物結晶が出来る時に晶出する様子)など、様々な議論が出来るようなデータを与える。ここでは安定な元素の分析値を用いて得られた成果は省略し、むしろ不安定と考えられている原子核を使って分かってきたことの一端を述べることにする。

 例えば現在地球の年齢は46億年といわれているが、実は地球上の岩石には46億年を示すものはない。46億年は隕石の年齢から推定された値なのである。隕石の年齢は109年から1011年という半減期を持つ約10種の核種対を使って測定してきた。こうして得られた、4.55×109年という値を基にして太陽の年齢、地球を含む太陽系の惑星、月などの衛星の年齢、そして宇宙の年齢までもが推定されている。

 地球や隕石の年齢より2桁以上低い半減期を持つ核種の中で、元素生成時に作られたものは、もう壊変してしまっていて現在地球上でも隕石の中でも発見することは出来ない。このような元素を消滅核種といっている。ある程度の寿命を持つものは、元素の合成が終わってから隕石や地球などの原料物質が宇宙空間で固化する時に取り込まれているので、その娘、或いは孫核種は地球や隕石の中に存在している。そのような核種を発見することが出来れば、元素の生成が終わってから原料物質が固化するまでの年齢を求めることが出来る。これまで半減期が105年から108年までの半減期を持つ消滅核種の娘核種が隕石中で検出されている。このようなことから元素生成が終わった後、比較的はやい時期に、先ずこれらの元素を含むチリのような細かい粒子が出来て、その後これらの粒子が集まって隕石や、太陽系中の惑星、衛星などが形成されたのであろうと考えている。

 さらに寿命の短い元素は元素生成の時に作られたものは消滅してしまっているが、実は現在も宇宙空間でエネルギーの非常に高い宇宙線によって作られている。こうして作られた核種も隕石中には存在している。これらの核種の動向を調べることにより隕石が宇宙空間で、衝突して破壊されたり、宇宙塵や高エネルギーの宇宙線により磨耗されたりしてきた歴史を解明することが出来る。

 また落下したばかりの隕石中にはさらに寿命の短い核種もまだ存在していて、その放射能を測定することにより、地球近傍の宇宙環境をも調べることが出来、宇宙へ飛翔体をとばすときの参考資料にすることも出来る。

 このように隕石を原子の基本的な性質を使って化学的に研究することにより、宇宙創成の時から現在までの歴史が次第に解明されてきている。これは我々が隕石を研究し始めた1950年代の終わり頃には殆ど何もわかっていなかったことであった。